ダン・アリエリー著 早川書房 1995円

この本は行動経済学というちょっとむずかしそうな名前の学問を紹介したものです。たくさんの面白い実験が紹介されていますが、二つだけかいつまんで紹介します。

レゴというおもちゃをご存知でしょうか。プラスチックの小さな塊をくっつけていって、橋とか建物とかロボットを組み立てるおもちゃです。ある心理学者がこのレゴを使って実験をしました。こんな実験です。

学生のアルバイトを募集し、40個のピースを使ってバイオニクルという戦闘用のロボットを組み立てさせる。最初の一体を作ったら2ドルもらえる。でも、二体目は11セント減らされて1ドル89セントだ。一体ごとに報酬が11セント減らされる。だから、たとえば11体目の報酬は90セントだ。

学生は、AとBのグループにわけられました。Aグループでは、出来上がったロボットを並べていきました。Bグループでは、出来上がったロボットは、次のロボットを作るためにということで、解体されました。つまり、ロボットを作っている最中に作ったばかりのロボットが解体されるのです。

さて、AとBのグループではどちらが多くのロボットを作ったでしょうか。その差は何体だったでしょうか。

著者達は、Aのグループの方が1~2体たくさん作るだろうと予想していました。しかし、実際は、平均で3.5体、Aグループがたくさん作ったのです。Aでは、一体あたりの報酬が当初の半分以下になっても65%の人が作り続け、Bでは、わずか20%でした。Aグループの人は、この作業が楽しかったといい、Bグループでは楽しくなかったといいました。

AとBの差はなぜ生まれたのでしょうか?

著者は、また別の実験もしました。

意味のない文字が並んだ紙を用意する。その中には、sの文字が連続してssになっているところが10箇所ある。実験協力者の学生は全部見つけたら、その用紙は完了で、次の用紙に進む。一枚目が完了すると55セントもらえるが、二枚目は50セントという具合に、一枚進むごとに報酬は5セント下がっていく。学生は一枚できたら係りのところに持っていく。

Aグループでは、係りの人が上から下まで目を走らせ、よろしいという感じでうなずいてから、机の上に置いた。

Bグループでは、学生が持ってきた紙を一目もくれずに、シュレッダーにかけた。

もちろん、Aグループのほうがたくさんの枚数をこなしました。報酬がたった10セントになってもssを探し続けた学生は49%。Bグループではわずか17%でした。

違いはなんだったのでしょうか。

著者は、仕事に意味があるかないかだといいます。ロボットの仕事では、自分のした仕事が目に見えた方がたくさんの仕事ができました。ssでも、監督者が、仕事を確認することで意味ができたのです。

面白いのは、シュレッダーグループは、監督者が目を通さないのでズルをして儲けることもできたのに、ズルさえもしませんでした。

「仕事から意味を奪うのは、驚くほど簡単なことなのだ。あなたが管理職で、なんとしても部下のやる気をなくしたいのなら、部下が見ているその目の前で、彼らの労作を粉砕すればいい。逆に、同僚や部下のやる気を高めたいなら、彼らに気を配り、がんばりや骨折りの成果に関心を払うことだ」

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