―洞窟風呂、雑木林、盗み聞きー
熊本の黒川温泉は、山の中の不便な場所にある温泉ですが
年間100万人の観光客が訪れます。
しかし、この温泉は、かつては寂れた温泉街だったのです。
変化のきっかけは、後藤哲也さんという一人の男が
10年かかって掘った洞窟風呂でした。
掘り始めた昭和29年当時、客が来ない。
家計は苦しく、米や野菜を作りながら宿の仕事をし
主食は米とかぼちゃをまぜたものでした。
このままではやっていけなくなる。
その危機感から、旅館に名物を作り客を呼ぼうとしたのでした。
次に、庭に雑木を植えました。
雑木林を植えようと思ったのは盗み聞きからでした。
後藤さんは、各地の観光地に出かけては
観光客の声に耳を傾けあるいは、京都の観光地の動向に注意していました。
流れは、金閣寺の見事な日本庭園から
もっと自然な静寂に満ちた西芳寺に向かっているように思えたのです。
黒川のような田舎では、人工を感じさせない自然がいい
それが観光で訪れる人々を幸せにするに違いないと感じたのです。
それならば、雑木林だ。
そして、だんだんと黒川温泉全体に後藤さんの考えが受け入れられて
現在の黒川温泉になったのだそうです。
ポイントは何でしょうか
ひとつは、名物です。
別のことばでいえば、強味です。
小さな強味を作って磨き上げるということです。
最初、洞窟風呂を作ったときから、黒川の田舎を売る
という発想があったのかどうかわかりません。
しかし、10年かかって洞窟風呂を作りその雰囲気に合う雑木林を作った。
後藤さんの旅館が繁盛するようになり、黒川温泉の他の旅館でも
露天風呂に力をいれ、雑木林をつくるようになった。
小さな強味をしつこく追い続けていくうちに
大きな強味になって、地域の力も大きくなったのでしょう。
もうひとつは、耳です。
お客様の自然な声に耳を傾ける。こうすることで
アンケートなどとは違った本音が聞けるのだと思います。
さらに、他の観光地の動向に気を配ることです。
こうすることで黒川温泉だけではわからない人の好みの変化を
知ることができるのでしょう。
世の中から情報をつかみ出し、自分の強味を何にするか決め
それを磨きあげる。
言ってしまえば簡単ですが、まさに商売の基本です。
自分にとっての洞窟風呂、雑木林は何なのか考えてみたいと思います。